224 Journal

224 JOURNAL Vol.81– 「decade」10周年記念の展覧会を終えて

佐賀県立美術館で約2週間にわたり開催された、224porcelain 10周年記念の展覧会「decade」が、2022年8月28日無事終了した。
会期中は新聞やテレビなどメディアにも大きく取り上げられ、私が視察に訪れた際も、多くの来場者で賑わっていた。

224porcelainは、嬉野温泉や嬉野茶で有名な佐賀県嬉野市の吉田地区で製陶する辻諭さんが、2012年に立ち上げた磁器ブランドだ。

170年以上続く老舗窯元に生まれ、幼少期より吉田の焼きものと美しい山々に囲まれて過ごした辻さんは、
「この肥前吉田焼を埋もれさせることなく、もっとたくさんの人に知ってほしい」。
そのためには「もっと素材と向き合い、食器に限らない自由なものづくりをしなければ」と、
32歳で224porcelainをスタートさせた。

10周年を記念して企画した展覧会「decade」では、磁器という素材と真摯に向き合い、
さまざまなデザイナーとのコラボレーションやプロジェクトに取り組む中で培った
224porcelain のものづくりを「現在」「過去」「未来」の3部構成で紹介した。

会場設計を担当したOpenAの大我さやかさんは、コンセプトについてこう語る。

「肥前吉田焼の400年を超える歴史を尊重しながら、最新のデジタル技術と融合させることで、
過去と現在、未来を行き来し、新しい価値を生み出す。
常にチャレンジングな姿勢と、縛られない作風が辻さんのものづくりだと感じました。

それを、会場デザインでも表現できればと思い、現在-過去-未来の3つのゾーンを、
不織布のカーテンでゆるやかに仕切るデザインにしました。神秘的な空間に仕上がったと思います」

現在のゾーンでは、形状と白磁へのこだわりを、製法と素材の視点から紐解く代表作を展示したほか、
関係の深い方々からのインタビュー映像も公開された。

嬉野茶時などさまざまなプロジェクトを仕掛け、地域を盛り上げる和多屋別荘代表の小原嘉元さんは
「肥前吉田焼を間違いなく引っ張っているし、知らなかった人をも振り向かせる力がある。
それが次に繋がるということ」だとエールを送る。

辻さんの高校時代の同級生でもあり、数々の三ツ星レストランで研鑽を積んだ人気フレンチシェフの小岸明寛さんは、
「時代の流れを見ながら、作り上げているのがすごい」
「彼の器には、料理を引き立てる特別な魅力がある」と絶賛する。
(※小岸シェフの料理のために作られた器はこちら

こうした信頼の積み重ねが、10年の証なのだろう。

「たくさんの方に支えられていることを改めて実感しました」(辻さん)

続く未来のゾーンでは、デジタルデザインと伝統工芸を融合したチャレンジングな試作品も発表された。

タレントとして活躍する佐賀出身の新郷桃子さんにご協力いただき、
3Dスキャンしたデータを編集して制作した等身大の胸像は、
そのリアルな再現性とアート作品としての存在感で、今回多くのメディアにも取り上げられていた。

どの作品も「最後は自分というフィルターを通して世に出すので、それが224らしさになっている」と話す辻さん。

西九州新幹線開業(9月23日)を間近に控え、新設される嬉野温泉駅に期待が高まる嬉野・吉田の地で、
時代を読み、陶磁器の可能性を広げる224porcelainの挑戦に、今後も注目していきたい。

文:ハマノユリコ

 

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