「これがお茶?」
誰もがそんな驚きの声を上げる
これまで味わったことのないお茶の味わい。
2016年夏に初開催された「嬉野晩餐会」の冒頭で
参加者の心を掴んだのは、茶師・松尾俊一さんによる氷出しのお茶だ。
もう2年も前になるのだと思うと感慨深いが、あの時の感動を今でも鮮明に覚えている。
氷が溶ける時間と抽出の濃度を計算し、
晩餐会が始まる一時間前に、オリジナル製作した泡瓶(ほうひん※)に茶葉と氷をセットして
抽出量までコントロールされた珠玉の一杯。
時間をかけて抽出することにより、濃厚な味わいが生まれるという。
この日のために、専用の泡瓶と茶杯を製作した224porcelainの辻諭さん。
茶師・松尾さんからの要望は、
「10gの茶葉と氷を入れることができる器。
茶葉や氷が、器の中で動かず、注いだ時茶葉が飛び出てこないこと。
かつ詰まることなく抽出しやすい形状」
何が入っているのか、開けた時の驚きを感じてもらえるよう、蓋つきのデザインとし、
あまり器を立てなくても注げるように、注ぎ口の長さにもこだわった。
「一滴二滴、しずくが出ればいい」
松尾さんがそうリクエストしたように、実際、一時間かけて抽出されたというお茶はほんのひとしずく。
ゴクッと飲むのではなく、吸うように口に含ませて味わい、余韻を楽しむのがセオリーだ。
そのためには、「茶杯は唇が切れるくらいに薄く尖らせて欲しい」。
茶師の想いに応え、
型ではなく、あえてロクロの手造りで制作したという。
松尾さんと辻さん、お茶と器、
一流の職人同士によるスペシャルな饗宴が催された
由緒ある和多屋別荘の水明荘『洗心の間』に敬意を表し、
泡瓶の蓋には和多屋別荘の紋である「丸に十字」がデザインされている。
※泡瓶(ほうひん)とは:
急須と同じく茶を入れる器で、持ち手のないもの。
文:ハマノユリコ
協力:和多屋別荘
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